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『からくり紅万華鏡』—餌として売られた先で溺愛された結果、この国の神様になりました—
『からくり紅万華鏡』—餌として売られた先で溺愛された結果、この国の神様になりました—
Author: 霞花怜

1. 人魂を喰う妖狐

Author: 霞花怜
last update Huling Na-update: 2025-05-28 06:19:47

 目の前に男が座っていた。

 多分、男なんだろうと思う。只、人間ではない。

 白い狐の面を顔の半分に被った男は、長い白髪で、白い着物を纏っていた。

 男の後ろに少年が二人、座っている。

 少年というには大人びた、かといって青年と呼べるほどの年齢でもなさそうに見えた。

 男に抱き付く一人の少年を撫でながら、こっちに視線を向けた。

 面のせいで正確な目線は解らないが、こっちを見ている気がする。

「……名前は?」

 短い問いかけに、首を捻った。

 №28 

 理化学研究所では、そう呼ばれていた。

 それ以外の呼称は、ない。

「二十八、です」

 仕方がないので、そう答えた。

 男が小さく息を吐いた。

「それは名ではないだろう。理研からくる子供らは皆、名を持たないね。君もか」

 知っているなら、聞かないでほしい。

 もう何度も理化学研究所から人間を買っている····らしいから、ある程度の事情なら知っていそうだが。

 男が顎を摩りながら、とっくりとこちらを眺める。

 観察している感じだ。

「こっちに、おいで」

 手招きされて、前に出た。

 人、一人分くらい空けて、前に立った。

「もっと近くだよ。俺が触れられるくらい、近くにおいで」

 更に手招きされて、移動に悩んだ。

 男に抱き付いている少年が足を投げ出している。

 そのせいで、これ以上、近づけない。

「紅《くれない》様ぁ、色《いろ》、もう眠いよ」

 首に腕を回して抱き付いていた少年が、ウトウトしながら目を擦る。

 年の頃、十二、三歳といった程度の少年だ。この子も、只の人間の気配とは違って感じた。

 よく見ると頭に大きな耳が付いている。尻には尻尾らしきものもある。

(髪の毛かと思ってたけど、違った。あの子も妖怪かな。てっきり、先に買われた理研の子供かと思ってた)

 後ろに控えている少年も、同じくらいの歳頃に見えるが、やはり同じように耳がある。

「紅様と早く一つになりたい。紅様と同じになりたい。いつもみたいに温かいの、欲しい」

 少年が、男の胸に顔を押し付ける。

 紅と呼ばれた男が、困った顔をした。

「色はもう、溶けてしまう時期だけど、いいの?」

「ぅん、溶けたいの」

 嬉しそうに頷く色という少年を、紅が眺める。

 その表情が、どこか悲しく映った。

「わかったよ。じゃぁ、沢山流し込んで、温かくしようか」

 紅が面を外した。

 色白で端正な顔立ちが顕わになる。

 何より、瞳の色に目を奪われた。

(紅……、血みたいに、真っ赤な、紅の瞳)

 理化学研究所で実験される時、折檻された時、何度も見てきた血の色だと思った。

「ん……」

 紅が色の額に自分の額をあてる。

 何かが流れ込んで、色の体がビクリと震えた。

 色の小さな体がほんのり光を帯びる。全身が喜んでいるように見えた。

「ぁ……、溶けちゃぅ、紅様、大好き……」

 恍惚な表情をした色の額に、紅が唇を押し付ける。

 色の体が発光して、体の輪郭が歪んだ。

「ありがとう、色」

 紅が色の額から何かを強く吸い上げた。 

 色の体が紅の口の中に吸い込まれて消えた。

(喰われた、んだ。魂が体ごと、あの男の中に、溶けたんだ)

 自分が見ていたのは紅という妖怪の食事風景だったのだと、ようやく理解した。

「……美味しかった」

 男がぺろりと、舌舐め擦りした。

「さぁ、おいで」

 紅が手を差し伸べた。

 怖い、という感情が確かに胸の中に膨らんだ。

 けれど、体は動いた。

 来いと命じられて逆らえば、もっと怖い目に遭う。

 それをこの体は、嫌というほど覚えている。

 差し伸べられた手に触れた自分の手は、震えてすらいなかった。

 怯えを悟られれば、折檻されるか、弄ばれる。

 感情は、表に出してはいけない。

 それもまた、体に沁み込んだ経験だった。

 乗せた手を掴んで、引き寄せられる。

 体が紅の目の前に屈んで、抱きつけそうなほどに近付いた。

「綺麗な髪だね。青色だ。現世《うつしよ》の日本では珍しい色だけど、染めたの?」

 紅の問いに、首を振った。

 実験的に霊元を移植されてから、黒かった髪と目が突然青くなった。

 その程度の変化はよくあるらしい。

 紅が、今度は目を覗き込んだ。

 大きな手が顔を包み込んで、親指が目尻をなぞった。

 酷く優しい手つきが、かえって怖かった。

「瞳も綺麗な青だね。君の名前は、蒼《あお》にしようか」

 静かに頷いた。

 初めてもらった名前らしい名前は、とても安直だけど、思った以上に嬉しかった。

「それじゃ、蒼。蒼も俺のモノになってもらうね。いいかな」

 確認なんて、無意味だ。

 この男は、金を出して自分を買っているのだから。

 一応、頷いて見せる。

 紅の顔が近付いて、額に口付けた。

 さっき、人間を丸呑みした唇が、自分の額に押し付けられている。

 背筋が寒くなるのと同じくらいに、体が熱くなって気持ちが良かった。

 生温かい舌が、額を舐める。

 押し付けられた唇から、何かが流れ込んでくる。

 紅の妖力らしいそれは、やけに温かかった。

「ぁ……、紅、様、熱い、です……」

 口が勝手に言葉を発する。

 何かが自分の中に入り込んで来たのだと思った。

 同時に、何かが出ていったのだと思った。

「蒼の霊力は、美味しいね。酔ってしまいそうだ。高い買い物をした甲斐があったよ」

 ちゅっとを額を吸い上げて、紅が唇を離した。

 真っ白な顔が、心なしか紅潮して見えた。

「次は、こっち。俺の一部になるために、口付けを交わすんだよ」

 紅の指が下唇を押した。

「はぃ、嬉しい、です……」

 何の戸惑いも躊躇いもなく、顔を近づける。

 唇が重なって、舌が絡まる。気持ちが善くて、力が抜ける。

 水音が響くたび、何かが流れ込んでくるのが分かった。

「上手だね、蒼。俺の妖力全部、しっかり飲み込んで」

 やんわりと顎を抑えられて、顔を上向かされる。

 反射的に口の中の何かを飲み下した。

 胸の中に、知らない感情が広がっていく。

「美味しい、です。もっと、ほしい」

 きっとこれが、この妖怪の妖術なのだろうと思った。

 今の自分は紅に心酔し、愛したいと思っている。

(何度も飲んだら、この気持ちを疑いもしなくなるんだろうな)

 こんな風に気持ち善くされて、何もわからない内に喰ってもらえるんだろうか。

 さっきの、色という少年のように。

(だったら、いいや。痛いのも辛いのも苦しいのもない内に、何もわからない死が迎えに来るなら、幸せだ)

 紅の手が頬をなぞるように撫でる。

 さっきと同じように、怖いくらいに優しい。

「これから、毎日あげるよ。蒼は、自分から欲しくなるからね」

 返事の代わりに、小さく頷く。

 紅の手が、視界を遮って、目の前が真っ暗になった。

 途端に強い眠気が襲う。

 紅の手の熱さを感じながら、促されるままに、ゆっくりと目を閉じた。

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